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鳥取地方裁判所 昭和21年(ワ)36号 判決

原告 諏訪部宗正

被告 宮脇亮三

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告は原告に対し別紙<省略>第一、二表記載の各土地を地上建物その他一切の物件を收去して明渡せ訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として別紙第一、二表記載の土地は訴外亡金田彌三郎の所有であつたが同人は昭和八年三月十八日死亡し訴外金田定藏においてその所有権を相続取得し昭和十六年八月十八日訴外鳥取縣中央水産株式会社が金田定藏から次で昭和二十年三月五日原告が同会社から右土地を買受けその所有権を取得しそれぞれ所有権移轉登記を経由したところこれより先大正十五年一月金田彌三郎は被告に対し地上に建物を建設所有せしめる目的で同訴外人所有の別紙第一表記載の土地を賃料一ケ年につき金百七円八十銭毎月末日右金額の十二分の一を支拂うこと賃料の支拂を六ケ月以上延滞したときは催告を要せずして賃貸借契約を解除することができる旨の約定の下に期間の定なく賃貸し引渡をしたが被告において昭和十年九月分の内金二円十五銭及び同年十月分から昭和十五年六月分まで金五百四円五十五銭以上合計金五百六円七十銭の賃料の支拂を延滞したので金田彌三郎の承継人たる前叙金田定藏は昭和十五年六月三十日被告に対し書面を以て右特約に基き右賃貸借契約を解除する旨の意思表示を発し右意思表示は即日被告に到達したから右賃貸借は解除された。仮に然らずとするも昭和二十一年一月借地法附則第十七條による二十年の借地権存続期間が満了しいずれにするも右賃借権は消滅したものである。然るに被告は右土地の上に建物を建設し正当の権原なく該土地を占拠している。次に被告は原告所有の別紙第二表記載の土地を何等の権限なくその地上に建物を建設して占拠している。よつて原告は被告に対し所有権に基き右各土地の地上建物その他一切の物件を收去し該土地の明渡を求めるため本訴に及んだ旨述べ被告の抗弁事実を否認し再抗弁として別紙第一表記載の土地に関する被告の賃貸借契約更新の請求に対しては原告において遅滞なく昭和二十一年十一月三十日異議を述べしかも原告の被告に土地明渡を求めるのは右土地に原告の住宅を建築し移住する必要に迫られたからであり他方被告は右土地の隣に一層廣大な土地を買得し何時でも本件土地を明渡し隣地に移轉し得る状況にあるから異議を述べるにつき正当の事由がある。從つて被告の更新請求は効力がない旨述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として別紙第一、二表記載の土地が訴外亡金田彌三郎の所有であつたが同人は昭和八年三月十八日死亡し訴外金田定藏においてその所有権を相続取得し次で原告主張の日訴外鳥取縣中央水産株式会社が金田定藏から次で原告が同会社から右土地を買受けその所有権を取得しそれぞれ所有権移轉登記を経由した事実被告が右各土地の上に建物を建設し該土地を占有している事実はこれを認めるがその余の事実はこれを否認する。別紙第一表記載の土地は被告において大正十五年一月訴外金田彌三郎からその管理人金田貴代藏を介して賃借したものでその賃料は一ケ年につき金八十四円七十銭(後に金百七円八十銭と改定)の約であつた。なお賃料を六ケ月分以上延滞したときは催告を要せず解除し得る旨の特約はなかつた。抗弁として仮に右のような特約があつたとしても被告は右金田彌三郎管理人金田貴代藏との合意により同人に対する被告の工場の製材挽賃及び燃料用製材屑代金等を賃料に流用計算することを予約したが被告は右第一表記載の土地に対する賃料昭和十年度分までの不足額金五十一円四十六銭昭和十一年度分金百七円八十銭の合計金百五十九円二十六銭に対し昭和十二年一月十三日金百円を支拂いその残額金五十九円二十六銭及び昭和十二年乃至昭和十五年上半期までの賃料合計金四百三十六円五十六銭に対し被告が右金田貴代藏及びその承継人金田清治から支拂を受くべき昭和十年乃至昭和十四年の間の材木、割木、薪木、製材挽賃等合計金四百八十八円十銭を約定によつて差引計算し金五十一円五十四銭の過拂となるものである。そればかりでなく被告は賃料を弁済のため供託しているから毫も賃料を延滞していない。從つて別紙第一表記載の土地につき金田定藏のなした賃貸借契約解除の意思表示が効力を生ずるに由なく又仮に右解除が有効であるとしても解除により賃貸借が終了した後被告において土地の使用を継続しているのに所有者たる金田定藏において遅滞なく異議を述べなかつたから前契約と同一の條件を以て更に借地権を設定したものとみなされる。又若し原告主張のように昭和二十一年一月賃貸借期間が満了したとすれば被告は本件口頭弁論(昭和二十一年十一月十三日)において右賃貸借契約の更新を請求する。なお別紙第二表記載の土地については被告は所有者金田定藏の管理人金田貴代藏が住宅新築のため材料置場として使用中の右土地を同訴外人からその材料を撤去するに從い順次に賃料一坪一ケ年につき玄米一升(石代相場四十二円を標準とし坪四十二銭)の定めで且つ建物所有の目的を以て賃借し昭和十二年以降昭和十五年までに建物を該地上に順次建築して所有し現に継続して使用している。以上いずれにするも被告は別紙第一、二表記載の土地につき賃借権を有することとなるべくしかし右賃借権はいずれも建物所有を目的とし被告はその土地の上に登記した建物を有するから右賃借権を以て原告に対抗し得べきである。よつて原告の本訴請求に應ずることはできないと述べ原告の再抗弁事実中原告が昭和二十一年十一月三十日異議を述べた事実を認めるが異議を述べるにつき正当な事由があつたことは否認する。原告は宅地建物のブローカーを業とし自ら使用する必要がないのに轉賣の目的で本件土地を買受けたものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

別紙第一、二表記載の土地が訴外亡金田彌三郎の所有に属していたところ同人が昭和八年三月十八日死亡し訴外金田定藏においてその所有権を相続取得し昭和十六年八月十八日訴外鳥取縣中央水産株式会社が金田定藏から次で昭和二十年三月五日原告が同会社から右土地を買受けその所有権を取得しそれぞれ所有権移轉登記を経由した事実被告が右各土地の上に建物を建設し該土地を占有している事実は当事者間に爭いがない。

よつて先づ別紙第一表記載の土地につき被告に占有すべき権原があるかどうかを按ずるに郵便官署作成部分の成立につき当事者間に爭いがなくその余の部分の成立を証人上原春太郎の証言により是認することのできる甲第一号証証人上原春太郎同佐々木由藏の証言同金田清治の証言の一部原告被告各本人の供述を綜合すれば被告は大正十五年一月金田彌三郎の管理人金田貴代藏から彌三郎所有の右土地をその地上に建物を建設し所有する目的で賃料一ケ年につき坪当り銭三十銭毎月末日右金額の十二分の一を支拂うこと賃料の支拂を六ケ月以上延滞したときは催告を要せずして賃貸借契約を解除することができる旨の約定の下に期間の定なく賃借し引渡を受けその後賃料を一ケ年坪当り金七十銭即ち右土地全部につき金百七円八十銭と改定した事実を認めることができる。尤も証人金田清治は賃料は当初から一ケ年百七円八十銭である旨及び被告において営業を継続している限り明渡を求められることはないとの特約があつた旨証言するけれどもこの証言部分は当裁判所において信用し難くその他右認定をくつがえすに足る何等の資料もない。而して右賃貸借はこれを以て金田彌三郎の包括承継人である金田定藏に対抗し得ることは勿論であり又右土地の上に被告が建物を建設している事実は前記の通りで且つ右建物につき被告が昭和三年八月十八日保存登記を経由した事実は成立に爭いのない乙第五号証により認め得るから建物保護に関する法律第一條により昭和十六年に金田定藏から右土地を買受けた鳥取縣中央水産株式会社に対しても從つて又同会社から右土地を買受けた原告に対しても右賃貸借を以て対抗し得るものというべきである。原告は被告が六ケ月以上の賃料の支拂を延滞したから金田定藏において約旨に基き昭和十五年六月三十日賃貸借契約解除の意思表示を発し右意思表示はその頃被告に到達したから右賃貸借はその時解除され消滅した旨主張するけれどもこの主張は次の理由により失当である。即ち賃料の支拂を六ケ月以上延滞したときは催告を要せずして賃貸借契約を解除し得る旨の特約は別段借地法の規定に抵触するものではないから有効と解するに妨げなく且つ右賃貸借契約解除の意思表示を発した事実は前顕甲第一号証により認めることができ右意思表示はその頃被告に到達したものと推定すべきであるけれども証人金田清治の証言により眞正に成立したものと認むべき乙第一、二号証被告本人の供述により眞正に成立したものと認むべき同第八号証証人金田清治同佐々木由藏同古田金松の証言被告本人の供述を綜合すれば右賃貸借契約締結に際し金田彌三郎の管理人金田貴代藏と被告との間に右土地の賃料と被告が貴代藏に対し將來取得すべき材木代、割木代、薪木代、製材挽賃とがその発生の都度当然相殺せらるべき旨の相殺の予約が締結せられたところ賃貸借契約解除の意思表示の被告に到達した昭和十五年六月三十日頃における計算関係は被告が支拂をなすべき賃貸料として昭和十年度分までの不足額金五十一円四十六銭昭和十一年度乃至昭和十四年度分各一ケ年につき金百七円八十銭昭和十五年度上半期分金五十三円九十銭以上合計金五百三十六円五十六銭であるに対し被告が金田貴代藏及びその包括承継人金田清治から支拂を受くべき金額は昭和十一年度金田新築材木代劇場修繕用材代金五十八円同年度割木代金三十七円五十銭昭和十二年度材木代金三十六円同年度薪木代金五十二円昭和十三年度割木代金三十六円四十銭昭和十四年度割木代金二十六円四十銭昭和十年度製材挽賃金三十円五十一銭昭和十一年前期分挽賃金八十五円八十銭昭和十一年後期分挽賃金五十三円八十四銭昭和十二年度製材挽賃金三十一円六十四銭合計金四百四十八円九銭となり更に昭和十二年一月十三日右土地の賃料として金百円を支拂つたので差引金十一円五十三銭の過拂となるもので賃料の延滞はなかつたことを認めることができる。(尤もこの外に弁論の全趣旨により成立を是認し得る乙第十二号証によれば被告が金田貴代藏に対し昭和十年度分材木及び薪木代として金四十円一銭の債権を有した事実を認め得るが前記昭和十年度分までの不足額金五十一円四十六銭は右昭和十年度分材木代及び薪木代金四十円一銭を控除した残額であると解する余地があるから右金額を前記の計算に加えることはできない)而して前認定の賃料六ケ月分以上を延滞したときは催告を要せずして解除することができるとの特約の趣旨を社会通念に照して解釈するときはそれは解除の意思表示到達の時に賃料六ケ月分以上の延滞があつた場合に初めて解除となる趣旨であつてその以前に六ケ月分以上の賃料を延滞した事跡があつたとしても解除の時において既に從前延滞していた賃料が完済せられ遅滞が解消している場合には特約による解除はなし得ない趣旨と解すべきであるところ解除の意思表示到達の時である昭和十五年六月三十日頃において賃料の延滞がなかつたこと前認定の通りであるからそれ以前に六ケ月分以上の賃料を延滞した事跡があつたかどうかを審究するまでもなく金田定藏の被告に対してなした賃貸借契約解除の意思表示は無効であるといわねばならない。よつて原告のこの点の主張は失当である。ところで原告は右賃貸借は昭和二十一年一月期間の満了により消滅した旨主張するからこの点につき按ずるに右土地賃貸借が建物所有を目的として大正十五年一月締結せられ土地引渡を了した事実は前認定の通りで且つ第一、二回檢証の結果に弁論の全趣旨を綜合すればその際被告は堅固の建物以外の建物の所有を目的としていた事実を認め得るから借地法附則第十七條第一項昭和十六年勅令第二〇一号(借地法借家法及借地借家調停法の施行期日及施行地区に関する件)によりその存続期間は二十年であつて大正十五年一月から起算し二十年を経過した昭和二十一年一月に賃貸借期間満了し右賃貸借は消滅したものというべきである。ところが更に昭和二十一年十一月十三日の本件口頭弁論期日において被告が借地法第四條により契約の更新を請求した事実は本件訴訟の経過に徴し明白である。而して元來借地権者が更新を請求し得べき時期については規定を欠くけれども借地権消滅後遅滞なくこれが請求をしなければならないと解すべきところ法律の專門家と認め難い被告に対し前記借地法附則及び勅令の規定に留意し借地権消滅後迅速に更新の請求をなすべきことを要求するは酷に失するから本件更新の請求は賃貸借期間満了後約十ケ月後になされたものであるけれどもなお遅滞なくなされたものと認めるを相当とする。從つて右更新請求は適法であつて更新請求の時である昭和二十一年十一月十三日から更に二十年を存続期間とする新たな借地権設定の効力を生じたものというべきである。原告は原告において右更新請求に対し遅滞なく異議を述べ且つ異議を述べるにつき正当の事由があるから右更新請求は無効である旨抗爭するけれども次の理由により正当の事由の存在を認めることができない。即ち成立に爭いのない甲第五号証証人奥平眞澄の証言により眞正に成立したものと認むべき同第八号証証人山根重憲同奥平眞澄の証言原告本人の供述を綜合すれば原告は昭和十五年夏頃から鳥取縣東伯郡倉吉町大字西町において奥平眞澄の所有家屋に居住しているが右奥平は京都府下に居住し銀行員をしているところ昭和二十五年中に停年退職する筈になつているのでその後は同所を引揚げ余生を郷里たる倉吉町で送るため及び体質の弱い娘を保養させるため右原告居住家屋の明渡を得て同所に居住すべく昭和十八年頃から管理人山根重憲を介し原告に明渡を要求していたが原告は立退先がないという理由で明渡を拒絶し來り昭和二十四年十月に至り奥平に対し原告において被告宮脇から早急に本件土地を明渡して貰いその跡に轉住して右家屋を明渡すよう努力すると約束した事実を認め得るけれども成立に爭いのない甲第七号証の一乃至七乙第十三号証の一、二証人岡村玄房同池口季治の証言に檢証の結果(第一、二回)を綜合すれば原告は昭和二十一年頃から宅地建物のブローカーを業とし頻繁に宅地建物の賣買の仲介をしており從つて通常人に比し自己の居住すべき宅地建物を入手し易い地位にある事実しかも原告は昭和二十一年八月頃訴外岡村玄房に対し本件土地を轉賣しようとしてその交渉をしたが岡村において地上に被告の建物があることを知り買受を拒絶したためその交渉は失敗に終つたもので即ち原告にはその移轉先として本件土地でなければならないという事情はなく一方被告は本件土地の裏に田地を所有しているけれどももし本件土地の明渡を命ぜられることになれば相当大規模な工場建物を收去した上右田地を潰廃し埋立てて宅地とした上同所に改めて工場を建築する必要があり莫大な労力費用を要する事実を認めるに足る。以上のような当事者双方の事情を比較すれば原告には未だ被告の更新請求を拒絶する正当の事由を有するものといい難い。よつて原告のこの主張は採用しない。

次で別紙第二表記載の土地につき被告にこれを占有すべき権原ありや否やを按ずるに確定日附部分の成立につき当事者間に爭いがなくその余の成立は証人山田順の証言により是認し得る乙第四号証前顕乙第五号証証人金田清治同古田金松同西村音造同山田順の証言檢証の結果(第一、二回)被告本人の供述を綜合すれば被告は地上に建物を建設所有する目的で昭和十二年頃所有者金田定藏の管理人金田貴代藏から右土地を同人が同所に建設している大工小屋及び同所においている建築材料を收去するに從い賃料坪当り四十銭で順次賃借する旨の契約を締結しその後貴代藏が逐次大工小屋及び材料を取拂い昭和十五年までに取拂を完了したので被告において順次地盛をした上工場を建設し賃借権に基き同年以後は全地域を使用して現在に至つている事実を認めるに十分でこの認定に反する証人佐々木由藏の証言原告本人の供述は信用し難くその他右認定をくつがえすに足る何等の証拠もない。而して前顕乙第五号証によれば昭和十三年三月十九日右地上建物につき保存登記を経由した事実を認め得るから右賃借権を以てその後右土地の所有権を取得した鳥取縣中央水産株式会社に対し從つて又その轉得者たる原告に対しても対抗し得るというべきである。

そうすると結局被告は別紙第一、二表記載の土地を占有し得べき権限たる賃借権を有するというべきであるから原告の所有権に基く本訴請求は失当である。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決した。

(裁判官 大賀遼作 石見勝四 柚木淳)

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